ちゃありいマスターの運営するBROWN’S CAFEに掲載されている東京カフェ巡礼の中でとりわけ興味をひいたのがこの李白だった。その外観は一見すると料亭風のたたずまいであるが、実態は神保町随一の隠れ家喫茶であった。店名を見て初めは唐の有名な詩人李白にちなんだものだと思っていたが、いろいろ調べるうちに朝鮮半島にかつて存在した李王朝の白磁にちなんでつけられていることが分かった。
ということは朝鮮風の喫茶なのかと思い、神保町カフェクルージングプロジェクトの目玉として非常に期待を抱いていた。まず初めに訪れたのは12月12日の19時少し前だった。近くにある有名なタイカレー屋メーヤウで激辛カレーを食し、はやる心をおさえつつ店の暖簾をくぐった。すると厨房にいた女性が申し訳なさそうに「今日はもうおしまいです。」と言うではないか。複数の方のHPで営業時間は20時までと確認していたのだが、どうやらお店の都合ということで19時でしまいだそうである。まあ仕方が無い翌日に訪れることにした。
この日はホリデーパスを使って精力的に活動した。早朝に東鷲宮百観音温泉に入り、いくつかの駅舎を撮影し、下北沢のCICOUTE CAFEで昼食を食べた後に食後の一服のお茶をしにこちらへやって来た。旅と鉄道旅行記、CAFE TRAIN、SPA TRAINの3つのサイトの取材を兼ねた小旅行である。
再び李白の暖簾をくぐって店内に入ると、恐らく韓国のものだと思われるゆるやかな琴の音色が耳に心地よく感じられた。入ってすぐ右側の窓際の席が空いていたので、そこに座ることにする。昭和初期の町屋の造りでもともとは料理屋として使われていた建物らしく、やはり料亭という第一印象の通りだ。
入って正面には歴史を感じさせる急な階段があり店内には店名の由来となっている李朝の白磁などが飾られてあったりする。一見すると和風なのだが、音楽といい陶器といい微妙に韓国の香りがうまい具合にブレンドされ、いわゆる耽美的なレトロカフェとはまた一味違った不思議な世界を醸し出していた。狭い店内は板戸や障子で仕切られていて、静謐で落ち着いた雰囲気が漂う隠れ家的な雰囲気を演出している。
ここはコーヒー、カフェオレ、紅茶、煎茶などの飲み物¥700〜のみであるが、全てに季節を感じさせるお茶菓子が付く。ちゃありいマスターに倣ってカフェオレを注文する。お茶菓子は琥珀色のりんごのゼリーが付いた。ゼリーの皿には赤く色付いた葉が添えられ、晩秋から初冬にかけての季節感を表現している。
この店はカフェ関連の複数のサイトで「出来れば人に紹介したくない」と紹介されている通りの、神保町の奇跡と言うべき存在である。京都のフランソア喫茶室が有形文化財に登録されたように、レトロなカフェの建物の価値は保存されてしかるべきだと思う。