北鎌倉の高台にギャラリーを併設した素敵なカフェがあるということは随分前から知っていた。鎌倉へ行く機会は少なくないのだが、いわゆる北鎌倉の観光スポットとは無縁な場所にあるので、わざわざ足を運ぶ機会がなかった。北鎌倉駅から西側へ歩いていくと、主要な道路であるにもかかわらず道幅が狭い。僅かばかりの幅の歩道に文句を付けながら歩いていくと左手にはガイドブックにも載っている老舗の羊羹屋がある。さらに歩いていくと右手に小坂郵便局が見える。うまく表現できないのだが、郵便局離れした立派な石造りで和風な感じのする建物なので良い目印になるだろう。この先の信号を左折して坂を登っていく。左手に板張りのいい味を出している民家を眺めながら、さらに急になった坂を登っていく。右手に光照寺というお寺があり、萩の花が今を盛りに咲き誇っていた。
昨日電話で予約をした時に近道を教えてもらっていたので、光照寺の上手にある細い階段はあっさりと見つかった。この手のアプローチのカフェに共通するのは、高台にある為に眺望がいいということだ。このことは、過去のカフェ巡りで証明されているので期待感はますます高まってくる。個人的にこういうアプローチをカフェへ続く「にじり口」と名付けている。いわゆる茶道の世界で言う所の「にじり口」にあたると考えていただければ分かり易いかもしれない。カフェへ続く「にじり口」については、石窯ガーデンテラスや茂庵の記事にも触れているので、参照して下さい。階段を登りきると右手に光照寺のお墓が広がっていて殺風景なものの、北鎌倉が一望出来る。北鎌倉という場所が狭隘な山の間に細長く伸びた街であることが手に取るように分かる。お墓を過ぎて右手の3軒目の建物がお目当てのGALLERY&CAFE NESTだ。というかあまりに前衛的な建物であるのですぐにそれと分かる。
傾斜地を利用して建てられているいわゆる地下室マンションのような造りで、カフェのある入口は2階にあたる。道から建物までは距離が離れているので橋のような通路で結ばれている。中は靴を脱いで入るちょっとしたギャラリーになっており、壁面には抽象画が掲げられ、テーブルには売り物の苔玉や小物が陳列されている。カフェのテーブルは意外と多く室内に3つ、テラスに2つある。店の方がなかなか出て来なかったのが大きなマイナス材料だったが、予約していた特権?ということで残暑厳しい日差しの降り注ぐテラス席を避け、外を見渡す窓際の特等席にさっさと陣取る。この席からの眺めは特に素晴らしく、雑誌の紹介記事では必ずと言っていいほど、このアングルから写真を撮影しているほどだ。このカフェの夏の看板メニューがアジアンパフェというだけあって、店内の椅子や風鈴ならぬ竹鈴がアジアのリゾート気分を演出している。時折風向きによっては電車の音が聞こえ、テラスから見渡すと竹林の合間から、遠くに北鎌倉駅を発着する横須賀線が見える。まるで模型の列車をジオラマで眺めているかのような錯覚を覚える。そういう意味で鉄道ファンにおすすめのカフェである。こういうカフェからの眺めは、CAFE TRAINというコンセプトが求めているものであったりする。9月の半ばだというのにセミがうるさいほど鳴いているが、高台を吹き抜ける自然の風は思いの外強い為過ごしやすい。北向きの斜面である北鎌倉このあたりの家にクーラーが付いていないのも納得が行く。
自分は本日のランチセット(イワシのカリカリ揚げ)を妻はハンバーグのセットを注文する。まずニンジンを薄切りにしたサラダとあっさりとしたスープが出される。メインのイワシのカリカリ揚げが出てきた時は、サラダが出てきたのか?と思うくらい量が少なかったのが残念だった。確かにカリカリに美味しく揚がっており、味付けも申し分ないのだが…それに比べて妻の注文したハンバーグは、予想に反してボリュームたっぷりで味もそこそこだったので、カレーやハンバーグというオーソドックスなセットを注文した方が間違いが無いように受け取られた。前座はここまでで、最後がいよいよ楽しみにしていたデザートだ。1500円のランチセットだが、150円アップで夏季はアジアンパフェとコーヒーぜんざいが注文できるので、それぞれひとつずつ注文して妻と分け合って食べた。注目のアジアンパフェはコーンフレーク、バナナ、緑豆、タピオカ、アーモンド、金平糖が渾然一体となった、食べて納得のアジアンデザートで、独創性という点では出色の出来となっている。特に緑豆ってどんな味なんだろう?と食べるまでは不安だったが、意外と日本人の口に合うものでコーンフレークの量を減らして、緑豆を増やして欲しいと思ったほどだった。
入った時は気が付かなかったのだが、飼い猫がギャラリーの所にうろうろしていたり、寝そべったりしていて和み系カフェという印象をさらに深めてくれる。決して猫好きという訳ではないのだが、近寄っていくと擦り寄って来たり、写真を写そうとするとポーズを取ってくれたり、帰ろうとすると別れ際にさよならの挨拶までしてくれて、まったくかわいい奴だ。