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冬の時期にスキーもせずに同じ温泉に3日もいると、お湯に入る事しかすることがなくなるものであるが、
町を散策していると古い建物が新しく建て替えられたり、新しい店が出来ていたりと訪れる度に変化があり結構飽きないものだ。
フロントで精算を済ませると、私が温泉好きなのを察知して温泉ハップを記念にいただく。
温泉ハップとは、湯畑の温泉の成分や硫黄などで作られている茶色い色をした液体である。
土産物屋で何度も見かけているが、未だに買ったことがない。
お湯に入れると白濁した黄色に変色し、強烈な硫黄のにおいが立ち込める。
湯の花よりも使い勝手が良いのだが、風呂や風呂の栓の金属のチェーンが傷むので浴槽には直接入れることはしていないが、
洗面器に溶かして、体にかけたりして時々温泉気分に浸っている。
チェックアウトした後、まだ行ったことがない道の駅に併設の「ベルツ記念館」へ向かう。
道の駅開設当初から存在は知っていたのだが、今まで足を向けたことがなかった。
道の駅は道の両側に建物があり、両者を屋根付きの歩道橋で結んでいる。
冬の時期に何度か歩道橋の上から景色を眺めたことは何度かあったが、今日ほど晴れ渡って360度の眺望が開けていることはなかった。
いざ「ベルツ記念館」に入るとなんと無料ではないか!
入館者があまりにも少ないので無料にしたのだろうか?以前来た時は有料だったような気がしたのだが…
ベルツ博士は明治初期にドイツから招聘された医者で、後に日本人と結婚し、草津温泉を世界に広めた功績であまりにも有名だ。
明治時代にはラフカディオ・ハーンに代表されるような海外からの学者達が、次々と日本の文化を世界に広めた時期だった。
ベルツ博士は医者として「草津は世界一の療養地だ」と公言していた。
自らの私財を投げ打って、土地を買い求め温泉を中心とした療養施設の建設を国に提言していた。
結局彼の目論見は実現しなかったが、この理念は現在のホテルヴィレッジに受け継がれている。
草津で本格的なリゾート施設の先駆けと言えるホテルヴィレッジには、テルメテルメという日帰り温泉施設がある。
この施設は綿の湯という独自の源泉を持ち、時間湯という草津古来の入浴法を実行している。
ちなみにホテルヴィレッジは老舗旅館の大阪屋も経営しており、新しいものと古いものをうまく融合させていると言える。
湯畑へ戻る途中で「近江屋精肉店」に寄って食料を調達する。
近江屋精肉店は怪しい雰囲気が漂っており、観光客はほとんど何の店であるか分からないほどである。
一見すると普通の民家で、入り口のブザーを鳴らすとおじいさんが現れた。
一体何しに来たんだ?みたいな胡散臭げな表情をしていたが、「鶏のももの唐揚げを2本ください」
というとやっと客だということを認識して、さっそく作業に取り掛かった。
外で待っているのも何か変なので、中で出来上がるのを待つことにする。
中と言っても二人入ってしまえば一杯の狭い空間であり、ひたすらおじいさんが唐揚げを作る過程を観察するしかない。
手際よく作業を進め、ものの10分くらいで美味しそうな唐揚げが出来上がった。
アルミホイルをつけて欲しかったが、そんなものはなさそうだったので言うのをやめた。
職人らしく黙々と仕事をしていたおじいさんだが、お金を払う段になって、笑顔がこぼれた。
こういうのを本当の職人気質というのであろう。おつりと一緒にクーポン券を渡された。
何だろうと後で調べてみたら、草津町で買い物をすると100円につき1枚クーポン券を貰えるらしい。
昼食にはこれだけでは足りないので、「草月」でふき味噌饅頭を求める。
この店は野菜饅頭で有名な店で、マスコミの取材を度々受けている有名な店だ。
草津には数多くの饅頭屋があるが、亀屋の温泉饅頭、草月の野菜饅頭、箱田屋のピリカラ饅頭、ちちやの温泉饅頭などが好きだ。
ふき味噌饅頭は春先にしかないと思いきや、冬場にもあったのでびっくりした。
野菜饅頭と聞いて抵抗ある方も、一度食べてみれば納得の美味しさである。
今日も暖かいので、白旗の湯の前にあるベンチでさっそく鶏の唐揚げを食べてみる。
味付けにはちみつを使っているので味は甘口である。さすがに出来たてなのでまだ熱々だ。
某フライドチキン屋の物と比べて値段の割に量があり、割安感がある。
目の前で肉をさばいて味付けをして揚げているのを目の当たりにした分、作り手の顔を思い出しながら食べるものは美味しい。
白旗の湯に入ると二つあるうちの浴槽の内右側が激熱なので、ほとんどだれも入っていない。
時々常連客がひとりで入っているくらいで、みな温い左側の浴槽に入っている。
右側の熱い浴槽でしっかり足湯をしてから左側の浴槽へ移ると、その湯温の違いが顕著に分かる。
時々勇敢にも右側の浴槽にトライする人がいたが、ほとんどの人は手や足先で触れるだけでギブアップだ。
そんな中地元の常連客らしきおじいさんが肩までつかっているのを見て、やってみようとしたが腰くらいまでつかるのがやっとだった。
湯上りに脱衣所で東京から来たというおじさんに話かけられ、ここに毎日入れる人がうらやましいという結論に達した。
草津の湯の素晴らしさに魅せられてここに住みついてしまう人がいるくらい、温泉好きには天国のような場所である。
西の河原通りを歩いていると、「するがや」さんの店先でおじさんが湯の花を袋詰している光景に初めて出くわした。
湯畑の湯の花の採掘権はこの店が持っているという話を聞いたことがあるが、尋ねてみると得意気に薀蓄を語ってくれた。
ここは土産物屋さんだが、素泊まりの宿を経営しており、日帰り入浴も受け付けている。
入浴料は500円だが、貸切料金を1000円払えば貸切にすることができる。
西の河原通りを進んで行くと饅頭攻撃の関所にぶちあたる。最近は手前の長寿店を真似して、その奥の店もただで配っている。
ゆっくり歩いていると、有無を言わさず押し付けられることがある。
運悪く妻が饅頭を無理やり押し付けられたので、饅頭が落ちてしまった。
お前が悪いんだみたいなことを言われたので、ふざけるなと一喝し、睨んでやったらすごすごと退散していった。
ここをクリアーするには、この道通らずに長寿店の手前の左手の坂を上がって迂回するのが一番だが、
どうしても通らなければいけないことも多い。対処法としては、小走りで走り抜ける、ポケットに手を入れて隙を見せないことだろう。
一見の観光客(私も最初に貰った時は確かに嬉しかった)には受けるサービスであるが、何度も草津を訪れる者にとっては問題である。
今回の草津の湯の締めくくりは、「泉水館」さんの自家源泉の君子の湯である。
江戸時代の外湯のひとつに君子の湯というのがあり、現在の宿の内湯の元になった歴史が「泉水館」さんの前に掲げられている。
食事や日帰り入浴を受け付けているが、控えめであまり目立たないのが、かえって奥ゆかしさを感じさせる。
男女別の君子の湯は、今時の旅館では珍しい総木造の昔ながらの外湯を感じさせる素晴らしい作りになっている。
特筆すべきなのは檜の床に滑り止めが施されていることだった。
檜の床は、濡れていると特に滑りやすいのであるが、こういう細かい気配りは大歓迎である。
ちなみに女湯の床はタイル張りだったが、近い内に浴室を改修するとのことであった。
「泉水館」さんはバブルの時期に部屋数を減らし、インターネットやメディアで宣伝しないという時代に逆行する宿である。
常連客のみが訪れる宿で、心のこもった手作りの料理と自家源泉の君子の湯が売り物である。
独自の源泉を持つ宿は、他に「草津館」さんの若の湯、「極楽館」さんの大日の湯がある。
両者ともHPを持ち、かなり知名度は高いのに引き換え、こちらは家族経営でなんとか食っていけるだけの経営らしい。
湯上がりに女将さんの話を聞いていると、私の理想とする温泉宿のスタイルに極めて近いと感じられた。
今度草津に泊まる時は、「泉水館」さんにお願いしてみようと心に誓った。
帰りの高速バスは17時の便なので、まだ十分余裕があるので「だんべえ茶屋」で一服する。
以前から気になっていたヨーグルトパフェを注文する。
アイス、ヨーグルト、ブルーベリーソースの味のバランスが良く隠れた人気メニューと言えよう。
特にブルーベリーソースが絶品で、シンプルなパフェながら味わい深い逸品である。
以前は藍染めの商品が陳列されていた場所は、食事処に変わっており、店の前にはいも串田楽、焼あんぴんもち、ジャンボいそべ巻
などを売っているコーナーが設置され、ふらっと立ち寄るには面白い店である。
最後は懇意にしていただいている天狗山通りの饅頭屋「亀屋」に立ち寄る。
饅頭無料券を貰っていたので楽しみにしていたのだが、あまりに遅い時間に行ったので売り切れで閉店していた。
草津に来たら帰りがけに必ず立ち寄る店なので、いつもお土産の饅頭はここと決めている。
悔し紛れに本当に当日売り切りなのだと、妙に感心したものの、無料券を持って来ただけにおさまりがつかない。
もやもやした気分を晴らす為に喜美の湯へ入る。ここも帰りがけには必ずと言っていいほど入ることが多い。
今回は珍しく湯のバルブが全開になっていた為、やや熱めの湯であった。
喜美の湯は、普段は温めの湯でゆっくり入ることができるので気に入っている。
加水するほどではないが、バルブを締め、しばらく湯もみをすると湯温が下がって入りやすくなった。
帰りの上州名湯めぐり8号は連休最終日とあって、到着時間の遅延が予想されたが、関越自動車道は思いの外空いており、
若干の遅延で運行された。
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