神保町というのは本当に面白い街だ。地名的には神保町が大部分を占めるのだが、隣には西神田という地名があるからだろうか、なぜか神田という呼び方も根強い。古書の街、スキー用品の街というイメージが一般的なのだが、夕食やカフェ目当てで訪れるようになってから実に多種多様の民族性溢れる名店がキラ星のごとく点在しているのに気が付いた。白山通りをはさんだ向こう側の神保町にあるエリカの存在は以前から知っていたが、この西神田エリカという店の存在を知ったのは神保町カフェにはまるようになったごく最近のことだ。存在を知っていても場所がどこにあるのか分からなかったので、全くのノーマークだった。
神保町の北側にあるタイカレーのお店メーヤウで激辛カレーを食べた後に李白へ寄るが、19時までの営業?だとやんわりと入店を断られ、ならば近くにある神田白十字へ行こうと思い見つからず途方に暮れていた時に目の前に現れたのがこの西神田エリカだった。先程撮影してきた神保町エリカと同じようなドイツ建築の外観であるが、違う所は路上に設置してある店名入りのスタンド看板だけだ。神保町エリカが店名が大きく書かれているのに対し、西神田エリカは珈琲の文字が大きく書かれている。それだけコーヒーの味に自信を持っているのだろうか?この謎は後日両店をハシゴして自分の舌で確かめることになったが…
店の外観を撮影しているとマスターの奥様と思われる人物が出て来て、店の自転車のところでなにやらごそごそやっているではないか。こんな夜の神保町でレトロカフェの写真を撮影していると道行く人の怪訝そうな視線を投げかけられるが、彼女はそんな私に一瞥もくれないで自転車のチェックに余念が無い様子なのでほっとした。これが噂のデリバリー用の自転車なのである。うーん店に入る前からこんなにどきどきするのはレトロカフェにはまるきっかけとなったホワイトハウス以来のことだ。緊張しながら店のガラス扉を押し開けると、そこにはドイツの臭いを感じさせる童話に出てきそうな薄暗い空間であった。
入ってすぐ右手にカウンターがあり、左手に申し訳程度の椅子とテーブルがある。なんだこれだけかとがっかりしかけたが、「奥へどうぞ」という蝶ネクタイもりりしいマスターの声がかかり奥へ歩を進める。左手にはこれまた年季の入った重そうな木の扉があり、その向こうにはメルヘンチックな世界が広がっていた。何がメルヘンかと言うと椅子の上部がハート型をしていて、さらに背もたれの部分がクローバーの形にくり抜かれているのである!一見すると松本の古民具にも似ているが、これほど可愛らしい椅子は他では見たことがない。壁へ目をやると名画の数々が陳列されていて、昭和27年に開店した当初はさぞかしハイカラなカフェだったと推察される。先程食べた激辛カレーというか付け合せの激辛とうがらしのおかげで、口の中が甘くて冷たい飲み物を欲していた。
クリームソーダしようかとさんざん迷ったのだが、結局コーヒークリームなるものを注文する。何が出てくるか予想した通りにそれはコーヒーフロートだった。お客さんが誰もいないことをいいことに調子に乗って席を移動しては、夢中になって店内を撮影しまくる。もっとも店内が暗い為に光量不足で使える画像は少なかったが…隙間風の入ってくる窓際の片隅で今までのカフェ巡りで撮影した画像の数々をチェックする。旧型の板張りの列車の車内を彷彿とさせる油の臭いに包まれていると、列車内でこういうシチュエーションもありだなと思ったりする。北海道を走るSLなどにカフェカーというのが併結されているが、乗ったことがないのでどのようなものかは分からないが。これは自分の夢だが「CAFE TRAIN」という列車があったらいいなと思う。
最近カフェやレストランの制服に興味があり、神戸屋キッチン、ヴィドフランス、エディアール、アンナミラーズなどのコスプレをしたウェイトレスさんがそれぞれ異なった号車に乗務するという夢のようなことを考えてしまった。内装はレトロカフェを基調として、そうイメージ的にはSLやまぐち号が一番近いかもしれない。勘定を済ませる時に営業時間や神保町エリカとの関わりについてマスターに問い掛けてみると、神保町エリカ同様早朝7時から営業しているというので、それならばエリカをハシゴしてみようと思った。
取材年月日 2003年12月12日
あまりも気に入ったので翌週の月曜日に神保町エリカでモーニングセットをいただいた後で、じっくりとモーニングコーヒーをいただきに行ってきました。白山通りの向こう側から見える朝日を浴びた西神田エリカは、レトロカフェにはまっているものにとって神々しくさえ思えた。この前はお店には顔を出していらっしゃっていなかった先代のマスターと思しき人物がカウンターに立っていた。店の中央のストーブに火が入っていたので、それにつられてストーブのそばに座る。神保町エリカでもそうだったのだが、タバコを吸う人は換気扇が設置されている窓際の席に座ってくれていたのでタバコの煙が店に充満せずに快適な時間を過ごすことが出来た。この店はモーニングセットはないが、普段410円するブレンドコーヒーが早朝は360円で飲める。
12日にはあえてアイスコーヒーの類を注文したので、これほど期待感を持って飲むコーヒーは久しぶりだ。ネルドリップで淹れられたブレンドはコロンビア、モカマタリ、マンデリン、ブラジルを配合したオリジナルものだそうだ。「今時、こんな贅沢なブレンドはなかなか飲めない」とのたまうマスターの言葉通り、ほのかな酸味、コク、苦味のバランスがとれた極上のコーヒーであった。何事も京都のカフェとの比較をしてしまいがちだが、イノダコーヒよりも酸味は感じられず、スマート珈琲店よりもあっさりしているが、実に飲み易いタイプのコーヒーで、自分でも最近このレシピにグアテマラを足して、豆の比率をいろいろ変えて楽しんでいる程だ。
取材年月日 2003年12月15日