ここはカフェというよりは、本来は宇治茶を販売する老舗の茶舗。奥でお茶をいただくこともできるのは意外と知られていない。何より素敵なのは、京の町家をそのまま使っているところ。座敷と坪庭、奥の間、蔵が一直線に並んだ典型的な町家の内部を、ここまでじっくり眺められるのは京都でも珍しい。実はこの店の向かい側にも杉本家という立派な町屋があり、時も祇園祭となると屏風や、祭りに飾られる縣装品(けそうひん)も飾られ多くの道行く人がその豪華さに感動のため息をつく。いわゆる町屋を改造した今時のカフェとは違う、これぞ極めつけの京都らしい普段着の生活感を体験出来る貴重な場所である。
土間になっている店内に入ると、お茶の他に茶器などが売られている。目に付いたのは外からでは分からないのだが、通りの正面に面した格子の内側が色とりどりのガラスで彩られていたことである。建物自体は明治20年(1887)前後に建てられた個人の住宅だそうで、先人の美的センスには脱帽した。メニューは特になく抹茶プリンセット(抹茶プリン、お茶のお菓子、煎茶or抹茶)(煎茶の場合800円、抹茶の場合1000円)のみ。夏は煎茶ゼリーか焙じ茶ゼリーが登場する模様。
個室でゆっくり出来る上に、庭を眺めることが出来るのはかなり得をした気分になる。この家に住んでいる子供が時々2階から降りて来たり、上って行ったり、2階でひとり遊びをしている気配が感じられ、お茶をしに来たというよりか、知り合いの家に招待された錯覚にとらわれる。奥の間では年配のご婦人達がおしゃべりに夢中で笑い声が絶えない。机の上の月刊京都という雑誌の表紙を見ると、見覚えのある坪庭が…何のことはない、この三丘園の坪庭であった。慌てて同じアングルから撮影してみる。流石にプロのカメラマンのアングルは素人とは違うことを痛感させられる。
冬は寒いので窓を開け放して坪庭、奥の間、蔵をじっくり見ることが出来ないので、冬以外に訪れるのが良いだろう。庭側の障子の下半分はガラス窓になっているので、冬だからと言って坪庭が見えない訳ではないのでご安心を。あまりにも居心地が良いので結局1時間以上も長居してしまった。四条烏丸から歩いて至近の場所に、これだけ閑静な町屋があること自体が驚きであり、自分の中で和を愛する気持が高まって来るのを久々に体験出来、京都のカフェ巡りをしめくくるのにもふさわしいと言える。