この店の存在はかなり前から気が付いていたのだが、入ってみる勇気がなかった。四条通に面した三つの小窓にレモンが飾られているのが目印になる。なぜレモンなのか?という疑問はあるのだが、その回答はシンプルで経済的だからだそうだ。この店の前を通りかかるとレモンが気になって仕方がなかった。ここのメニューはフレッシュジュースとサンドイッチが主体である。オレンジジュース、グレープフルーツが美味しいと評論されているが、やはりここはミックスジュースが一番のおすすめ。おばさんの手際があまりにも早いので判別がつかなかったが、リンゴ、オレンジ、バナナなどを手早く切って牛乳、砂糖、氷を加えて(最後に蜂蜜を入れていたような気がする)ミキサーで攪拌するとあっという間に出来上がる。2人分注文したのだが、しかもその量はグラスにぴったりおさまるのは長年の間に磨かれた熟練のなせる技である。
店内はかなり狭いのだが、カウンターの他になんとテーブル席もある。カウンターの後ろの飾り棚には初戎の飾り付けがあった。店に入った時は常連さんらしき人がいたのだが、ジュースが出来上がる頃には店内には我々二人だけになってしまった。出されたミックスジュースの下には、果物につけるシールからヒントを得たという店のシンボルマークとなっているリンゴをあしらったコースターが置かれている。果物の酸味と甘味、牛乳の味が渾然一体となったミックスジュースが作られる過程はここでなければ味わうことはできない。東京などのフルーツパーラーなどでも、もちろんミックスジュースはあるだろうが、目の前で作られていく過程とその無駄のない動作は、バーテンダーの技にも似た一種のパフォーマンスと化している。
店主のおばさんはてきぱきと片付けをすませ、果物の仕込みを確認したりしていたと思いきや、不意に姿が見えなくなってしまう。と思ったら彼女は店の脇でゴミ出しを行っていた。カウンター奥の下にある扉から出て、入口と反対側にある通用口から外に出ていったのであるが、そんな気配をまったく感じさせないのは流石である。