神保町のカフェ巡りをしている内に、どうし+ても気になる店があった。靖国通りの北側を通る度に気になって必ず立ち止まる店があった。それが柏水堂だった。店の奥にはステンドグラスがあり、店の奥を覗いた瞬間、昭和初期頃にタイムスリップしたような感じに浸るのが日課のようになっていた。創業はなんと昭和4年というから驚きだ。一見するとただの洋菓子店だが、奥には喫茶スペースがありカフェとして利用可能だ。店の看板とも言える美しいステンドグラスゆえに、神保町カフェ巡りの締めくくりの日まで隠し玉としてとっておいたのである。
会社を18時きっかりに上がり、都営三田線内幸町駅まで走り、神保町駅からもまたもや急ぎ足で共栄堂へ向かう。名物のスマトラカレーを速攻で食べてから、やっと柏水堂へ駆けつける。何故こんなに急いでいるのかと言えば、この店の営業時間は19時までだからなのである。この辺りが老舗たる所以と言ってしまえばそれまでだが、いかんせん早終い過ぎると思う。
喫茶スペースへ足を運ぶ前に店員に「喫茶はまだ大丈夫ですか?」と尋ねると、「生憎19時までですが」との答えが返って来る。そんなことは先刻承知なので、「大丈夫です」と言いながら腕時計を見ると19時までには20分あまりあった。ネット上で調べた所フィッグケーキというザクロを使ったケーキが有名らしく、特に良質なザクロの産地であるイランから空輸されたものを使っているそうだが、ショーケースを眺めてみるが残念ながら売り切れだった。比較的手頃な値段のなケーキがある中、ひときわ目を引いたのはセ・アルジャンというケーキだった。TV番組で紹介されたということらしいが、あまり時間がなかったのでセ・アルジャンとミルクティーを注文する。
閉店間際だと言うのにケーキを買いに来るお客さんが途切れないのは流石老舗の貫禄だ。靖国通りに面した側の他にも横道に面した側にも入り口があり、入りやすい構造になっているのが功を奏しているようだ。ステンドグラスに誘われて入ったのだが、あれだけ憧れていたステンドグラスは一通り撮影してしまうと不思議と見慣れたものになってしまい、さほど興味を引く対象ではなくなってきた。その代わりに天井から吊り下げられているシャンデリアの灯りの色が水色というのが、大変珍しいと感じた。夢中で撮影していると向かいのソファー席のカップルが、シャンデリアの灯りの色と椅子やソファーの革張りの色が一緒だということを言っている。これはなかなか個性的なインテリアで時代が50年くらい逆戻りした錯覚を感じる。
店の奥には紅茶やコーヒーを作る為の厨房があり若い女性の店員さんが最後のお客の為に紅茶を作っている。さすがに老舗の洋菓子店だけあって、給仕の仕方や歩き方までなんとなくエレガントに感じられた。セ・アルジャンは洋酒をふんだんに使ったオレンジの味のするなんとも美味なケーキだった。いわゆるサバランと言われるものだ。なるほどこれならTVで紹介するのも納得の美味しさだ。