浅間温泉のお湯の供給源となる源泉は、第1号源泉、第2号源泉、第4号源泉、東北源泉、山田源泉、大下源泉、鷹の湯源泉の7カ所となっている。この中の東北源泉が栄の湯の玄関先にあることが以前からずっと気になっていた。もしかしたら宿の近くにあるお湯の分湯場を経由しないで東北源泉を直接利用しており、浅間温泉で源泉に一番近い宿?と思っていたが、栄の湯の敷地内に湧くこの東北源泉は、浅間温泉事業協同組合の所有物だそうだ。玄関先にはちょろちょろとお湯が出ている。まさにこれが正真正銘の東北源泉であり、ポンプアップしたものを直接流しているそうだ。昭和を感じさせる鄙びた木造の小規模な旅館だが、よく手入れがされておりなかなか好感のもてる感じがした。完全に個人旅行客向けの宿である為、一般的にはほとんど知られていないと思いきやインターネット予約を取り入れており、楽天トラベルやじゃらんなどでも取上げられているのが意外だった。
宿に着いてからこたつにあたってお茶とお菓子で一服し、近くの探索に出掛けた。マナーの悪さからか地元民以外は入浴出来なくなった北せんきの湯のその後の様子を見に行った。路地の間にある扉にはしっかりと鍵がかかり、案内の看板も外されてしまっている。2回ほどここの素晴らしいお湯に入ったが、もう入れないとなると残念でならない。温泉街の北側をぐるっと一周して帰って来たが、観光客はおろか人の気配がほとんどなくこのあたりまで歩いてくるのはよほどの物好きかもしれない。
子連れ旅行の宿選びで重要なのはキャパシティーが大きい宿を選ばないことだ。きめ細かくかゆいところまで手が届くような小規模な家族経営の宿が望ましい。出来れば小さな子供がいるような宿であれば望ましい。小さい子供がいればおのずと子供に対する接客態度というのもマニュアル通りの画一的にはならないものだ。大浴場とは別に家族風呂があるところは結構ねらい目である。なぜならそういう宿は経験上、古き良き温泉文化を正しく継承している宿である確率が高いからである。例を挙げると田沢温泉ますや旅館、霊泉寺温泉和泉屋旅館、松之山温泉凌雲閣など歴史のあるそうそうたる温泉旅館ばかりだ。
家族風呂は、2人入れば一杯になってしまう大きさの深めの浴槽に熱めのお湯が掛け流しされている。やむなく大量加水したので適温の湯となるが、ずーっと浸かっているうちに熱めになってくるがその頃には体のほうが熱さに慣れてくるものだ。こうした極上のお湯が部屋単位で無料で貸し切れるのは素晴らしい。こういう湯使いこそ素晴らしいのであって、やみくもに浴槽を大きくしたり収容人数を増やすのはお湯に対する間違った考え方から来るのだ。
食事に関してある程度事前にこちらの要望を聞いてくれることも重要である。インターネット予約が普及しつつあるが、こういう些細なことまで手を抜かない気配りが出来るのはある程度小規模でないと無理だ。栄の湯へは事前に川魚を抜いてもらうように頼んだら川魚の焼き物が鰤の照り焼きに替わっていた。夕食は前菜盛込皿、季節鍋、煮物椀、炊き合わせもしくは蒸し物、造り、焼物、揚物ののほか御飯、吸物、味噌汁、香物、フルーツ&ケーキがついた。夕食も朝食も個室にて提供されるのも珍しく、心のこもった家庭料理で、温泉を使って炊いたご飯がとりわけ美味しかった。食後にロビーにあるPCを使わせていただいたが、さりげなく宿の方がストーブを持ってきて下さってちょっと感激した。
すべてに関して非の打ち所のないような素晴らしい宿だが、その秘密は宿の若旦那が2年間京都府にある湯の花温泉 翠泉で培った経験によるものだそうだ。自分も新婚旅行でその旅館でお世話になったので非常に驚いたが、これもなにかの縁なので今後は松本の常宿にしたいと思う。