年末年始に家族旅行先を咲花温泉に決めた時から宿選びをしていたのだが、なかなか条件に合致する宿が見当たらなかった。インターネットで色々検索していくうちに黒田さんのサイトにこの宿が紹介されているのを見つけた。咲花温泉は駅から至便な温泉場であるが温泉街の一番奥に位置し、阿賀野川川下りの下船場に隣接する碧水荘が子連れの条件にまずまず合致しているのでここに決めた。咲花温泉は佐取館という高級旅館を除けばどれもどんぐりの背比べだと思っていたのだが、改築された碧水荘の正面の風情を見てなかなかやるなと感じさせられた。
玄関に向かってのアプローチが階段になっておりバリアフリーになっていないのが惜しまれるが、打ちっぱなしのコンクリートと瓦屋根を組み合わせた高級感あふれるエントランスになっているではないか!欲を言えば無機質なコンクリート剥き出しではなくせめて正面の部分だけでも木材で覆うくらいの一工夫があってもいいかと思う。盆栽が並べられていてそれだけでも伝統的なものを大切にする宿だなと感心していたら、立派な門松などの正月の飾り付けが整っており玄関を入ると立派な掛け軸がかかっている。ここだけを見ればかなりの高級旅館にやって来たかのような錯覚を感じるが、いい意味で期待を裏切られて「やられたな」と思った。
ロビーからは阿賀野川の雄大な眺めが一望出来、なかなか素晴らしい。改築された母屋にあたる新館と渡り廊下で結ばれた昔ながらの古い建物の本館があるが、今夜は大晦日ということで新館は満室らしいので本館に通される。裏手には忘れた頃に通過して行く磐越西線の気動車の走行音が聞こえ、窓からは時折行き交う舟下りを見ることが出来る。長旅の疲れを部屋で癒してから階段を降りて1階の内湯へ向かう。本館の一番奥の阿賀野側に面して作られた浴室からの眺めは良い。が、お湯に入ってしまうと景色はあまり良く見えない。景観では隣の湯元館に軍配が上がる。
それにしてもこの浴室の寒さはちょっと尋常ではない。浴室の隅に巨大な換気扇が取り付けてあり、そのおかげで出入り口の扉へと空気がひっきりなしに流れているのでとても寒く感じられる。換気扇のスイッチを探してOFFにしてみようと試みるが、客の目に触れる所にスイッチが設置されていないようなので諦める。十分お湯で温まってからもう一度出てみたが、最後まで寒さを感じられた。おかげで息子のこの旅館のお湯のイメージは「寒い」ということになってしまったようだ。
ここまでマイナスの面ばかり取り上げたが、碧水荘は今回入った咲花温泉の旅館の湯の中では子連れに最もおすすめの湯である。ちょっと熱めの咲花の湯の中でも加水せずに適温になっていたのは唯一ここだけである。湯口に近い方が熱めの湯、湯口に遠い方が温めの湯で浴槽を2分割してある。同じ湯とは思えないほど温度差があるので、気分に応じて使い分けることが出来る優れものの湯使いだ。浴槽が2つに分かれているとは言え、かなり広いのでのびのびと子供を遊ばせながら入ることが出来た。浴槽が広いせいか成分が薄く感じられたが、これは相対的に湯温が低いせいかもしれないのでさほど気にするほどでない。体育館を思い起こさせる程大きな浴室であるのに、シャワー付のカランが浴槽に近い方の壁に設置されているのは少々いただけない。
夕食前に貸切露天風呂に入ったのだが、すでに日が暮れて外が真っ暗になってしまっていたので景色はまったく見えない。不思議なことだが、あれだけ寒く感じた内湯に比べてこちらの方が寒く感じなかった。これは翌日の元日が異様に暖かくこの夜が無風状態であったせいかもしれないが…暗がりの中で目を凝らしてみると何か湯面に光るものがある。驚いたことに露天風呂には銀色の保温用のシートが載せられているではないか。ということは加熱せずにそのままのお湯を使っている可能性があるということだが、かなり広めの浴槽なので冬場は湯温が低くなるのでいつまでも浸かってられそうだ。真ん中で仕切りをして2つの独立した露天風呂として使ってもいいくらいなので、冬場以外に泊まりで明るい時間帯に利用してみたいものだ。
大晦日だが正月料理のように見た目も豪華で美味しい夕食が頃合を見計らって運ばれてくる。これで1泊15,000円ならむしろ安いと思ったくらいで、普通の感覚だったら20,000円と言われても文句は言えない内容だった。息子は、相変わらず旅館の食事に手をつけようとせずTVの下にある金庫を開けたり閉めたりしてずっとひとりで遊んでいる。布団に寝転がって紅白歌合戦を見ているといつのまにか眠り込んでしまい、深夜に起きて浴室へ行くと相変わらず巨大な換気扇がうなりを上げて回っている。熱めの湯と温めの湯に交互に入って十分に体を温めてから髭をそる為にカランの所に腰を掛けると、それでもやはり寒く感じた。いい湯の使い方をしているのに重ね重ね残念なことだ。草津の某旅館でも冬場には同じような現象が起こるので、こういうことはある程度我慢しなければならないかもしれない。
翌朝は朝食後にロビーで餅搗き大会があったのだが、9時過ぎに宿の裏手を通過する快速あがのを撮影していたらすっかり終わってしまって宿泊客に餅が振舞われていた。もしかしたら旧式の気動車かと思いきや、何の変哲もない新型のキハ110系だったのでちょっとがっかりした。やはり搗きたての餅はうまい。こうして搗きたての餅をその場で食べるのは母方の祖父母が存命中であった幼少の頃以来かもしれない。きな粉の大好きな息子にきな粉餅を食べさせると、喜んでパクパク食べる。こうした日本古来の伝統行事を守ることは一般家庭では難しい為、宿泊先でこういう行事に出会えるのは嬉しいものだ。