上諏訪は湯量の豊富な温泉地で各町内に地元住民専用の共同浴場があり、道端にはひねれば温泉が出る蛇口があったりします。しかし、外来入浴が可能な共同浴場は数少ないです。別府の裏泉家のように入浴イベントをやったらいいのではないでしょうか?
衣温泉は、民家の玄関先に温泉が設置されていて、母屋の管理人に料金を払うシステムになっている。脱衣所にはなんとも嬉しい木製の棚があり、1918(大正7)年2月15日付の分析表が掲げられている。
現在の上諏訪温泉は集中配湯方式を採用しており、地元住民は負担金を払えば水道と同じように温泉を引くことが出来る。そのことを勘案すると古い分析表通りの湯であるかどうかは分からないが、今なお硫黄の香りがするので独自源泉である可能性が高い。入手した諏訪市の温泉供給リストによると、市が給湯している施設には入っていなかったのでおそらく独自源泉であるだろう。
タイル貼りのレトロな浴槽は2つに仕切られており、奥が温めで手前が熱めになっている。蛇口をひねると上品な硫黄の香りのする無色透明な湯が出てくる。幾多のサイトでここのお湯はエメラルドグリーンと称しているが、タイルの色がエメラルドグリーンなのでそのように見えるのかもしれない。実際は無色透明なお湯である。近くにある大和温泉にも同じことが言えると思う。
天井を見上げると手の込んだ湯気抜きがあり、雰囲気としては松本の浅間温泉の蔵下の湯のような歴史を感じさせる素晴らしい浴室である。観光地にあってこうした風情ある共同浴場があるのは奇跡的なことだと思う。観光客にはほとんど知られていないが、大河ドラマのおかげで有名になった高島城の近くにあるので人がどっと押し寄せないか密かに心配している。
取材年月日 2005.11.20
実に9年振りに衣温泉を訪れてみた。車で来るには目標物があまりに無いので困ったが、衣ノ渡川が湾曲した部分の御倉橋の左側にあるので大和温泉よりは分かりやすい。今回は友人2人と諏訪市博物館、諏訪上社本宮、諏訪上社前宮、峯の湛、干沢城、鎮大神社と諏訪の史跡巡りをしました。
立って入浴するのが売りの片倉館へ向かったのですが、花火大会の影響で駐車場が満車だった為、行き先を変更して衣温泉へ向かいました。夕暮れ時のひと時を共同浴場で貸切で友人たちと過ごすことが出来ました。
建物の外観が不粋なトタン張りだったのが、表面が白く塗られてお洒落になっていた点を除いてほとんど何も変わっていませんでした。9月初旬でしたが、夕方とは言え男湯と女湯の間に設置されている温度計は30度を指していました。料金が200円と格安なので旅行者にやさしいのが嬉しい。
大正七年の古風な温泉分析表は、かつて男湯の脱衣場に掲げられていましたが、浴室内部へ移設されていました。温泉の出る蛇口と水の蛇口で湯量と湯温の調節が自由な上諏訪温泉のスタイルは、自分好みです。
夕方から夜に移る時間帯で、斜光線を浴びながらまったりとした共同浴場でのひと時はひときわ感慨深い思い出になりました。友人達は思い思いに湯に浸かって疲れを癒したり、旅の思い出にふけっていたようです。
取材年月日 2014.09.07