有馬と聞いてたいていの方は兵庫県の有馬温泉を思い浮かべるだろう。冷鉱泉とは言え、有馬温泉の金泉を彷彿とさせる黄土色のいいお湯があることをはたしてどれだけの人が知っているだろうか?ここ、有馬療養温泉の歴史は古く、1300年以上も前に役小角(えんのおづぬ)と言う行者が泉源を発見した。幼少時代の孝謙天皇が訪れたり、北条氏の将兵が療養などで訪れたりして栄えた時代もあったが、その後の地震等で泉源が途絶えてしまっていた。開湯が弘法大師の手によるものは、よくある話だが役小角が発見した温泉と言うのはちょっと聞いたことがないので調査してみる価値がありそうだ。
昭和40年代に再び泉源が発見され、現在に至ったとのことで、雑誌「自遊人」の付録の湯めぐりパスポートで無料入浴が出来ることを知ってからこの温泉の存在を初めて知った。入浴料金は入浴時間と入浴時間帯によって異なるが2時間1700円というのは、ちょっと引いてしまう値段だ。だがしかし首都圏から良質な本物の温泉へ行くには時間とお金がかかる。わざわざ時間をかけて遠くの温泉へ行くよりも、日常的にこういう温泉へ通うのも悪くない。しかし重ね重ねくどいようだが、料金があまりにも高すぎる!小市民としては、無料のパスポートがなければ絶対に縁のない温泉である。寒風の吹きすさぶ中、鷺沼駅から徒歩で20分ほど歩くとバス通りの有馬温泉商店街と住宅街の中に溶け込むようにしてこの温泉はあった。
建物は一見するとマンション風の建物で、入浴後に探索してみると果たして3F以上はワンルームマンション形式の部屋が並んでいた。入ってまず無料パスポート利用である旨を申し訳なさそうに告げると、そんな事はまったく意に介さない風情でご主人が快くタオルと飲泉用の透明なプラスチックのコップを渡してくれる。これではまるで健康診断か人間ドッグに来たかのような錯覚を感じる。入り口左手にあるソファーやテレビのある休憩室を見ると、冷やした源泉を自由に飲める冷水サーバーが置いてあるので温泉へ行く前に2杯ほどいただく。薄い塩味がするが冷やしてあるせいか金気臭はほとんど消えている。脱衣所の入り口の暖簾に「霊光泉」(りょうこうせん)とある。
霊験あらたかなお湯なのだなと身を引き締めて浴室を覗くと、いかにも効き目がありそうな黄土色の湯がそこにあった。源泉は入って正面にあるライオンの湯口からちょろちょろと流れている。左側の壁面には湯温計が設置されていて42℃くらいを指している。鉱泉ということで浴槽がかなり狭いのではないかと想像していたが、意外と広くシャワーやカランの数も多い。ただし一番奥はシャワーとカランが密集しすぎている感じは否めないが…冷鉱泉ということで沸かし湯であるのはもちろんであるが、17℃という冷たい源泉を直接手に取ったり頭にかけたり、飲んだりすることが出来るのが嬉しい。たまたま空いていた時間帯でほぼ貸切状態だったのでこそひとしきり温冷浴法を楽しんだが、しばらくすると次第に入浴客が増えて来て人気の高さがうかがえた。なんとなくバリバリの和風旅館をイメージしていたが、湯口はライオンだし、浴室にはビーナス?の置物があったり意表をつかれたミスマッチ感覚が印象に残った。
1階の休憩室でご主人としばし温泉談義などしてから、2階の畳敷きの休憩室でTVを見て寛いでいると奥のほうに布団を敷いて寝ている方がいるのに気がつく。その時はてっきり湯治客かと思っていたのだが、後日Harumisanの趣味に生きる・まいにちの記事で常時待機しているマッサージ師さんだということが判明しました。いいことずくめの有馬療養温泉だが、ひとつだけ気になったことがある。脱衣所と休憩室に灰皿が設置されていて、ヘビースモーカーのご主人と入浴客が浴後にスパスパ吸うタバコの煙である。せめて脱衣所は禁煙にしてもらいたいものだ。療養に来て隣でスパスパやられては気分も台無しになってしまうのではないだろうか?
取材年月日 2003.12.06
この温泉に入るのは丁度半年振りだ。今回は妻も同行して泊りがけだが、子供が生まれたばかりなのでさすがに連れて来ることが出来ないので実家に預けた。出産後の妻へのねぎらいと骨休めになるかと思い、思い切って近場過ぎるが泊りがけにしてみた。実はこの温泉朝一のお湯にはうっすら油の膜が張り、冬の寒い時期には黄金に光り輝く金箔が現れるとの事をご主人から聞いていた。朝一の湯に入る為には宿泊するっきゃない!と思っていたら、「自遊人」の付録の濁り湯パスポートで今回も取り上げられているではないか!しかも宿泊すればパスポート利用で1万円の宿泊料金が8千円になると言うことである。二人で泊まれば4千円引きになるのでこの機会を逃す手はない。
この日は一日目黒通りのアジアン家具を見て回ったので鷺沼駅に着いたのは夕方になってしまった。一刻も早く温泉に入りたいので、タクシーで乗りつける。夕方の時間帯だったので温泉は予想通り少々込み合っていた。夕食は一見至極ありきたりな家庭料理といった感じだったが、ひときわ印象に残ったのがご主人が自ら釣ってきたという魚たちであった。ご主人は千葉や東京湾などに出掛けて釣って来た旬の魚を刺身や焼き魚にして出してくれます。冷凍モノではない新鮮な刺身が食べられるのは望外の喜びで、料理の質・量とも十分なレベルで実は食事が美味しい旅館ということでも知られているらしい。開店直後の11時にお風呂に入ってきっかり2時間入って、13時から食堂で昼食ということは予約すれば可能かもしれない?もしくは夕食というパターンも出来るかもしれません。食事の間中飼い犬のリュウくんがまとわりついてきて、ますます旅館というより親戚のお宅におよばれしたようなアットホームな雰囲気である。ご飯も味噌汁もどんどんお代わりして下さいとの言葉に甘えて、味噌汁は2回もお代わりしてしまいました。
前回は脱衣所に掲示されている効能書きをじっくり見なかったので今回はデジカメでしっかり記録を残す。適応症として、心臓神経症、神経痛、慢性関節と筋肉のリューマチス、婦人病、月経異常、不妊症、腸カタル、四十肩、痔、食欲不振、不眠症、神経衰弱、男子生殖器病、三叉神経痛、膝水溜まり、打ち身、打撲、腰痛、火傷、痛み、しびれ、めまいを伴うむち打ち症などの後遺症、アトピー、とある。前回はじっくり源泉を湯口から直接味わうことが出来なかったので今回は、飲泉を中心に療養してみようと思った。冷鉱泉とは言え、適度に加熱されているのでずっと入り続けているとのぼせて来る。他に宿泊客がいないので貸切状態なので出たり入ったり、源泉を頭や首筋にたんねんにかけながら肩や首のマッサージを行い、ストレッチを行う。適度に体がほぐれて体が水分を欲する時に霊験あらたかな鉱泉を直接飲むことが出来るのは、非常にありがたいことだ。湯面や浴室全体からはうっすらと鉄分の臭いが漂っているが、ライオンの湯口に鼻を近づけると鉄分の臭いが強烈にする。しかし源泉を口に含んでみると臭いから予想されたほど鉄分はきつく感じられず、意外と飲みやすかった。
こんなにいいお湯なので本当は24時間入れるのが望ましいのだが、そう出来ない深い理由があった。ご主人の話によると、毎晩お湯を抜いて掃除をして朝までにお湯を溜めて加熱するとのこと。確かに22時頃にはお湯を抜きに来たし、8時前には浴槽にはお湯がほぼ満たされていたので、浴槽の大きさも計算され尽くされているんだなと感心した。ここは首都圏で一番のお湯かもしれません。ただし入浴料金がもっと安ければなあ…
取材年月日 2004.05.15〜16