いままで持ちこたえていた天候が今日になって崩れて、
こけし造りの家々を横目に見ながら姥乃湯旅館へ向かう頃にはすっかり土砂降りになってしまった。
陸羽東線の踏切を渡り、坂を下っていく左手に姥乃湯旅館はあった。
鳴子温泉の湯治宿としては有名なのでどんな外観だろうと思っていたら、意外にも普通な感じの建物で拍子抜けした。
外来入浴では亀若の湯(単純泉)男女別、こけし湯(含硫黄−ナトリウム炭酸水素塩・塩化物泉)男女別、
啼子の湯(ナトリウム−炭酸水素塩・硫酸塩泉)男女交代の3つに入浴することが出来る。
実はこれ以外にも湯治客専用の別の種類の源泉があるというのだから驚きだ。まさに鳴子を象徴するような多種多様な源泉の宝庫と言えよう。啼子の湯は露天なのでこの雨では無理なので後回しにしたら、鍵がかかって入れなくなってしまった。
外来入浴者用の待合スペースに姥乃湯旅館の歴史の説明文が長々と書かれている。
一説によると啼子の湯がなまって、鳴子という呼び方に変わったというくらいなので
滝の湯の湯守を代々行っているゆさやと同じくらい由緒のある旅館なのだろう。
亀若の湯(単純泉)
阿部旅館の単純泉は鉄泉だったのでここももしかしたら鉄泉?と予想したら、やはり鉄泉だった。
鳴子では、鉄泉のことを単純泉と呼ぶ習慣があるのあろうかと思ってしまったくらいだ。
いかにも鉄泉らしい赤い湯の花が舞っている適温の湯。
偶然にも阿部旅館の単純泉と泉温が一緒だが、こちらは湯量を絞っているせいかお湯が劣化してわずかに濁っており、重たい感じ。
豪快な掛け流しでは阿部旅館の方に軍配が上がるが、鄙びた風情という点では小ぶりな浴槽と濁ったお湯でこちらに軍配が上がる。
浴室の至る所が赤茶けており、阿部旅館の浴室と比べ物にならないくらい年季の入った鄙びぶりだ。
こけし湯(含硫黄−ナトリウム炭酸水素塩・塩化物泉)
浴室全体が木造りで、もちろん浴槽も木造りである。硫黄泉に限らず木の温もりは温泉に一番マッチしていると思う。
そこいら中に白い硫黄の成分がこびりついており、湯治場ならではの貫禄を感じた。
私の理想とする鄙びてこじんまりとした白濁した硫黄泉という姿が見事に具現化されていた。
これで泉温が適温でざーざー掛け流しだったら申し分がないだが…
泉温の高さから、かなり熱いお湯であると予想していたのだが、温めの湯なのでびっくりした。
しかし湯口から出てくるお湯は熱いので、湯量を絞ってうまく温度調節をしているのであろう。
ここはぜひ湯治をしながら、ゆっくり日がな一日浸かっていたい、そんなお湯だ。
取材年月日 2002年9月16日
まとめて休みが取れる貴重な年末年始にかけて鳴子温泉へ出掛けた。
温泉が目的なので宿選びが一番重要になるのでかねてから泊まりたいと思っていた姥の湯に決めた。
なぜかと言うとここは中規模旅館ながら自家源泉を4つ持っているのである。
亀若の湯(単純泉)
姥の湯というとどれも中途半端な泉質でいまいちという意見があるようだが、決してそうは思えない。
ある意味一番実力をみせつけられるのがこの単純泉だ。
泉質こそ単純泉だが源泉名姥の湯の横にはカッコ書きで芒硝泉と書いてあるではないか!
+イオンではカルシウムと鉄(U)を多く含み、コンディションによっては鉄分を強く感じることがある。
−イオンでは硫酸と炭酸水素を多く含む。ここは割と泉温が温いので子供連れには好評なようである。
入れ替えたばかりのお湯では白っぽく濁っていたりするので一概にこういう感じだと言えない不思議なお湯である。
こけし湯(含硫黄−ナトリウム炭酸水素塩・塩化物泉)
硫黄泉好きにとって鳴子には様々なお湯があるが、ここは比較的空いている時が多いような気がした。
浴槽の規模は中規模旅館なのでそれほど大きくないが、泊まり客・立ち寄り入浴客ともに選択肢が多いので必然的に込み具合も分散化される傾向があるのかもしれない。
数多くの立ち寄り入浴体験を拝見してもこの硫黄泉が、姥の湯の中で一押しという意見が数多く見受けられる。
私もこの意見には同感なのだが、あくまでも立ち寄り入浴に限った場合の意見である。
コンディションによってはかなり熱いこともあり、4つある泉質の中で最も入浴感の強いやや青みがかった白濁のお湯は朝湯にはもってこいである。
床板には硫黄成分がこびりついており白ペンキで塗ったかのような錯覚すら覚える。
ちなみに宿の敷地内に4つの源泉があるのは確認出来たのだが、やぐらが組まれて有毒ガス注意の看板がある硫黄泉の源泉以外は正直なところどれがどれだかさっぱり見当がつきませんでした(笑)
啼子の湯(ナトリウム−炭酸水素塩・硫酸塩泉)
このお湯は宿泊者用には男女交代制で、立ち寄り入浴客用には混浴制ということが宿泊して初めて分かった。
露天は内側から鍵をかけることが出来るので、家族やグループで貸切にすることが出来る。
もっとも貸切制ではないので常識の範囲内での利用をお願いしたい。
どうりで4年前に訪れた時には鍵がかかっていた理由がようやく分かった。
鳴子温泉に到着した12/30は非常に暖かく日も差していたのだが、夕方から雪が舞い始めて夜まで降り続いた。
1泊目の深夜にここを覗いた時は雪がかなり降っていたのだが、宿泊者専用の芒硝泉で温まった後再度覗いてみると雪が小降りになっていたので入ってみることにした。
鳴子では貴重なこの露天は壁に囲まれている為眺望は利かないが、樹木や石が配置されてそこそこ風情のあるものとなっている。
一面の雪景色の中に分け入り、ケロリン桶でお湯を汲んで雪を洗い流した後で浸かってみるとなんともいい気分である。
湯口から出てくるお湯は熱めなので湯口の付近に寝そべっているとそこそこ適温なのだが、端っこの方へ行くと温く感じた。
ここはやはり芒硝泉や硫黄泉でじっくり温まってから向かうのがいいでしょう。
お湯はやや鉄分を含んでいるようで若干赤みがかっているようで、旧泉質名は含芒硝-重曹ということでとなりの単純泉と宿泊者専用の芒硝泉を足して2で割ったような感じがした。
源泉名が旧姥の湯ということなのでもともとはこちらの源泉がメインだったのでしょう。
啼子がなまって鳴子と呼ばれるようになったという古文書によれば、ここが鳴子温泉発祥の地なのかもしれません。
温泉神社の源泉とどちらが古いのか調べてみる必要がありそうです。
義経の湯(ナトリウム・カルシウム-硫酸塩炭酸塩・炭酸水素塩泉)
自炊施設があって駅やスーパーの近くにあって、体や頭を洗って浴槽のお湯で流せる泉質・温度(シャワーやカランはない場合が多いので泉質や温度が重要となる)の源泉を持っている温泉旅館って珍しいものである。
今回鳴子温泉での宿選びの中で決め手となったのは、含土類-芒硝泉というあっさりとした泉質の源義経風呂と呼ばれる宿泊者専用の浴室の存在である。
現在の温泉の泉質の呼び方は科学の実験みたいで今ひとつなじみがないのだが、姥の湯に来ると様々な旧泉質の呼び方が登場するので新旧の対比が出来て勉強になった。
重曹=炭酸水素塩、芒硝=硫酸塩がここの4つの源泉によく出て来る。
硫黄泉以外の3つの泉質は一見単純な泉質に見えるのだが、成分分析表を見ると結構複雑である。
裏の源泉を実際に見学したのだが、そこそこ高温である為舐めてみることも出来ずに結局区別がつかなかった。
泉温が低めの単純泉、泉温が不安定な硫黄泉、真冬に入るには勇気の要る露天の啼子の湯などと比べて、湯量が豊富で適温のこの芒硝泉が湯治客のニーズにもっともマッチしているのだろうと思った。
体を洗うのはもちろんここで、露天に入る前に体を温める為にもここに入っていたのでもしかしたらここに入った回数が一番多いかもしれない。
取材年月日 2006年12月30日〜2007年1月1日