ここは、入り口からしていかにも怪しげで、果たして旅館として営業しているのかどうか判別が出来かねるほどだ。
玄関を入った右手で入浴料金を払うのだが、玄関とホールは節電の為か電気がついていない。
おまけに応対をした男性も無愛想。第一印象ではこの旅館自体、客商売として首をかしげてしまった。
暗さに目が慣れるにつれ、次第に色々な物が見えてくる。この怪しげな雰囲気に惑わされてどちらに浴室があるのか、
分からなくなり浴室とは反対の方向へ歩き出してしまったほどだ。
大浴場へ行くと脱衣所から想像するとかなり大規模だと思ったのだが、浴室を目の当たりにして驚いた。鄙びた温泉が多い東鳴子温泉にあって、かなり斬新な造りの浴室で、出来た当時はさぞかし珍しがられたのではと思う。
中庭にはかつて露天風呂として使われたであろう丸い空間があり、ガラス戸で仕切られており天井は無く、吹き抜けになっている。
その中庭を囲むようにして円形の大浴場が造られている。
直径10m、幅2mくらいのアメーバ型のプールのような形状のメインの浴槽と、反対側には細長い浴槽がある。
ここは混浴だが、浴室は広い割に見通しが良くないので柱の陰に隠れれば女性でもあまり人目を気にせずに入れるのではないだろうか?
湯の色は透き通った黒色に見え不気味な感じがするが、日光にあたっている部分は薄黄色に見える不思議なお湯だ。
色の割には思ったよりあっさりしたお湯ですが、臭いは鳴子特有の石油臭で、黒い湯の花も舞っている。
かつてここは田中温泉という名称で呼ばれただけに源泉を4本持ち、宿泊客専用の浴室もあるらしい。
外来入浴で入れる浴室が婦人用と家族風呂が2つあったが、案内の屋代さんと同行者をあまり待たせるのも悪いのでパスした。
食事の評判がかんばしくないので立ち寄り入浴にしたが、大浴場の湯に入るだけでも十分堪能出来た。
お湯がいいだけに玄関とホールの電気を点けるだけで随分印象は変わるのだろうが、所詮入湯料200円では旅館の経営を補えないのだろう。
田中温泉名物と噂されるおばあちゃんに会えなかったのが心残りだった。