志賀高原を走り抜け、平床の噴泉を越えると、突然ホテル街が出現する。ここが、志賀高原の最奥の熊の湯だ。嘉永元(1848)年幕末の志士佐久間象山が発見したという。温泉の由来は、手負いの熊がこの温泉を使って傷を癒したいう故事による。このホテルには大学のスキーサークルの合宿で泊まったことがある筈なのだが、その当時はまだそれほど温泉に興味がなかったので温泉に関する記憶が全く残っていない。その後温泉に興味を持つようになり、ここが素晴らしい温泉であること知り、再訪の機会をうかがっていた。今回の長野・新潟県境の湯巡りの後半の目玉として、訪れることにした。
フロントで入浴料1,000円支払うと、タオルをくれた。この値段だからタオルくらいつけてくれないと割に合わない。左手奥にある浴室へ向かったのだが、さすがにホテルだけあってなかなかたどりつかない。唐突に浴室が現れる。今までのホテルの空間とは全く異なる素晴らしい空間が広がっていた。男湯と女湯の他に樽風呂があるということで、そちらを覗いてみる。女性も入浴可と書いてあったが、女性専用ではないのかもしれないので、男性も女性もかえって入り辛いのでは?酒の仕込みに使われていたらしい深くて大きな立派な樽である。さすがに入るのはためらわれたので、撮影するだけにとどめる。
脱衣所はさすがに大規模なホテルだけあって、かなり大きい。浴室は年季の入った総檜造りで、天井の梁は硫黄の成分の為か白っぽい。この雰囲気は東北地方の湯治場を思わせる風情である。床や浴槽は比較的新しいものに張替えられていて気持ちが良い。ホテルの大浴場と言うとタイル貼りであるのが一般的であるが、これはうれしい誤算だ。定期的に板を張替える手間と費用がかさむが、いつまでもこのままの姿を保ってもらいたいものだ。お湯は硫黄臭のする抹茶色をした感じで、白い湯の花が大量に舞っている。浴室の雰囲気同様にお湯も身体にずっしり来る感じで、長い間浸かっていると湯疲れしそうだ。湯口から出てくるお湯を飲むと、予想通り抹茶のように苦くて渋い味だが、飲めない味ではない。
外を見るといつの間に雨が降っていたので、露天には行きたくても行けない。浴槽の縁に足を乗せてストレッチをしていると、通り雨だったのか、間もなく晴れてきたので露天へいそいそと向かう。露天は内湯よりも濃度が薄く、湯温も内湯ほど熱くなく、長湯する向きにはこちらが良い。一番気に入ったのは人工の滝が造られており、露天の最奥へ行くと滝の飛沫を浴びられることだ。温泉で火照った身体を天然のシャワーで冷やし、またお湯に浸かる。温冷浴法は疲労回復に効き目があるが、まさかこんな風に滝の飛沫を利用するとは設計者も思ってみなかっただろう。