あまり知られていないがこの近くに長湯を上回る物凄い炭酸濃度の為有毒ガスが発生する某温泉へ向かう。その温泉は長湯からほど近い七里田温泉にある。最近できた温泉館ではなく、下湯という名前の温泉である。川沿いにあるというその温泉を探し求めて歩くと、二階建の古い建物を発見。あらかじめインターネットの画像で建物の外観を目に焼き付けていた為、あっさり見つかった。「〇〇会倶楽部」の札が見え、建物の正面には「下湯温泉入浴者へのお願い」が掲示してあり、当然のごとく鍵がかかっている。鄙びた温泉地ではこうした地元住民専用の温泉に時々出くわすことがあるが、そのほとんどが外来入浴お断りということになっている。ここはそうしたいわゆるジモ専であるが温泉館で頼むと鍵を貸してもらえる。はっきり言ってここは万人向けではない。というか大抵の人は入りたいと思わないだろうから、あえて場所の説明は必要ないだろう。
下湯へ入りたいので鍵を貸していただきたいと受付のおじさんに申し出ると、そういう人があまり来ないのか、感心した様子であった。入浴の心得を一通りレクチャーを受け、温泉館の入浴料と共通なので券売機で入浴券を購入する。先程発見した建物で間違い無いことを確認して、小躍りしながら下湯へ小走りで向かう。左側のドアを開けると、建物の中には男湯と女湯のつもりだろうか浴室が二つある。地元の方も最近はほとんど利用されない為で、右側の浴室の浴槽は湯垢とも湯の花ともつかない茶色の物が多い。左側の浴室の浴槽はなんとか我慢できるくらいだったので湯をかき混ぜ、隅に茶色の物体を追いやる。かつて経験したことのないゲロ渋な浴室で、個人的にはすっかり気に入ってしまった。浴室はちょっとした銭湯くらいの広さで、綺麗に掃除をすれば一般に開放できるのでは?と思ったが…温度がかなり低い為加熱が必要であり、維持するのも容易ではなく、日帰り入浴なら温泉館がある。表面には油分が浮いており、パッと見には別に何の変哲もない透明なお湯である。
が、入ってみると体中に面白い程大きな炭酸の泡がびっしりとまとわりつく。お湯はかなり温めだ。このままではなかなか上がれない。まず体を動かさないでおくと次第に暖かいお湯の層ができる。足と足をくっつけ、腕を組みぴったりと胸につけ、体の表面積を小さくする。毛深い方なので体毛についた泡が白く見え、おじいさんになった様だ。泡は払いのけてもすぐに体にまとわりつく。これほど巨大な泡は滅多に体験できない。それもその筈、先程まで入っていた炭酸ガス日本一とされている長湯温泉の比ではない。炭酸ガス濃度が高い時は、目が痛くなったり、気分が悪くなって倒れたりすることもある危険な温泉である。試しに湯口に鼻を近づけると確かにガスの臭いがする。しばらく吸っていると息苦しくなってしまうほどの強力なものだ。お湯は無色透明の暖めたサイダーの中に入るといった感じが当てはまり、なめるとかつてない程の炭酸味がきつかった。脱衣所の方で人の気配がする。なかなか戻らないので、心配になって温泉館の方が様子を見に来たのだろうか?温泉館へ戻る途中で鍵を貸してくれた温泉館のおじさんが車で通り過ぎたので軽く会釈をして見送る。