加勢の湯は、車道に面しているということなので目星をつけた付近を探すとあっさりと見つかった。しかし外観はどう見ても物置にしか見えないので、車から降りて探さなければ絶対に見つからない。外の看板には石松の湯としか書いてないが、複数のサイトの情報では間違いなくここである。物置の入り口(本当にそう見える)を開けると、懐かしい田舎の物置にタイムスリップした様だ。これくらいインパクトのある造りは稀少価値があるが、決して万人向けとは言えない。通行量の割とある道に面していて車の音が少々耳障りなのが少々残念ではあるが、この雰囲気は渋さを通り越して、入るものを圧倒する強烈な存在感を感じさせた。
大きい浴槽は真ん中に一応仕切りの板があり男湯と女湯を分けているが、浴槽内はつながっている。地元の人の入浴時間が朝と夕方だけらしいので、浴槽にはパイプが引かれているのだが、お湯が供給されていなく、非常に温い。パイプをたどっていくと浴室のの隅にコンプレッサーを発見してスイッチを入れると、しばらくして熱い湯が供給される。物置の中の湯浴みは奇妙な感覚だが、慣れてくると不思議と気分が落ち着いてきた。加勢の湯は、泉質とか薀蓄垂れてる次元ではなく、ここは日本人の持つ懐かしいプリミティブな田舎の物置という舞台装置によって最大限に魅力が発揮される稀有な共同浴場である。
明治時代に建てられた木造の湯小屋は改修したのは屋根のみだけらしく、古い駅舎にも似た価値観を抱いてしまう。こういった建物が現存していること自体が奇跡に近い。ひょっとしたら日本最古の木造の湯小屋なのかもしれない。湯巡りをしていると思われる若い二人連れの男性が入ってくるが、腕の刺青を見て恐くなって浴槽の端でじっとしてしまう。挨拶をしようにも怖くて、声をかける精神的なゆとりもなかった。幸運なことに湯が温かったせいか、彼らはお気に召さなかった様で5分位で引き上げた。25分くらいしてやっと湯量も増え適温になるが、車で待っている妻に悪いのでもう少し入っていたかったが30分で切り上げる。