法師温泉「長寿館」は建物を改築したり、新築したりと姿を変えてきつつある。割と新しい法隆殿(宿泊棟)は以前来た時は真新しかったが、風雨に晒されいつのまにか古びた感じになっており、いい味を出している。車から降り、宿泊棟の撮影を始める。写真を撮っているとテンションが次第に上がっていく。今回の宿泊は実は無料招待である。日本秘湯を守る会の会員旅館に3年間の間に10軒宿泊すると1泊分無料になるというシステムになっている。無料招待の宿はその10軒の中から選ぶので、選ばれた旅館にとってこれほど名誉なことはないので、番頭は満面の笑みで出迎えてくれた。部屋はもちろん最高級の法隆殿に案内される。10畳の和室の脇に椅子とテーブル、書き物机がある。6畳の和室にはミニキッチンが設置されている。電磁調理器があるのでお湯を沸かしてカップラーメンくらいは作れる。冷蔵庫には秘湯らしからぬボージョレー・ビラージュまで揃っている。
浴衣に着替えるのももどかしく、新設された玉城乃湯(中浴場)へ向かう。法師乃湯(大浴場)入り口に男女別の脱衣場が新設されている。その奥に玉城乃湯がある。脱衣場は今時の高級和風旅館にありがちな作りだが、浴場との境の扉の前の床に埋設されている石が妙に暖かい。温泉の熱を利用しているのであろうか?浴場に入ると檜のいい香りが充満しており、内湯の底には玉石が敷かれている。窓のデザインや梁の造りは法師乃湯(大浴場)を忠実に再現している。内湯は京都府の湯の花温泉の「翠泉」のイメージに似ている。露天は植木や石がうまく配置されており、周りの自然と調和している。露天の湯温は内湯に比べ、かなり熱かったので沸かしか?と思い、後で仲居さんに聞いた所、内湯とは違う源泉を使用しているそうで、沸かしではなかったので安心した。
内湯には何と洗い場があり(大浴場には無い)、木製の風流な巨大なベンチがひときわ目立っている。蛇口やシャワーといった無粋なものは無い。あるのは湯が出てくると思しき木の樋があるだけのシンプルな造りだ。どうしたら湯が出せるのだろう?と思い、樋の下を見ると法師温泉のロゴマークの入った木製のボタンがある。押してみると一定時間湯が樋から流れ出て来る仕掛けだ。玉城乃湯の案内を簡単にしておこう。夜6時〜10時、朝5時〜7時は女性専用、その他は男性専用。準備の為?朝9時〜午後3時は利用できない。法師乃湯には女性が数名入っていたが、じきに上がってしまい貸し切り状態だ。ここは夕方に入ると妙に薄暗く感じられるので、夜に入るのが、最適かと思われるので早々に切り上げる。夕食後はすっかり寝てしまい、12時前に目覚める。モー娘の浴衣姿に見とれてTVを見ているともう1時過ぎであった。初日の紀行文の下書きを書き物机でしたためる。こういう時こそノートパソコンがあれば二度手間が省けるのだが…
法師乃湯へ行くとおじさんが入って来たが、すぐに上がり貸切状態となる。栗材を使った大浴槽は田の字形をしている。入り口に近い左右の浴槽は「旭の湯」、奥の2つは「寿の湯」と呼ぶ。湯は玉石が敷かれた底から湧き出してくる。時々底の方から気泡がぽこぽこ湧いて出て来る、その間合いが実に絶妙で自然のなせる技である。もともと温泉が自然湧出していた川の上に浴舎を建てたので、それぞれに湯温が微妙に異なるが、「寿の湯」の左側が温いので、温い湯好きとしては好んでここばかりに入っていた。ここで法師乃湯の極上なつかり方を編み出したので紹介しよう。それぞれの浴槽にはそれぞれ頭を乗せる為?の木が渡してある。その木を頭の所に引き寄せ、底に敷いてある玉石の中から大きな平べったいものを探す。石を縦にしてお尻の部分の支えにする。そして、つま先を浴槽の縁に乗せる。頭とお尻とつま先で浮力を使ってバランスを取るのである。足元湧出で42〜43度という湯温は理想的な温泉である。これで硫黄泉なら完璧なのだが…
昨夜来の台風の風雨はますます激しさを増している。朝食後に玉城乃湯へ入るが、たたきつける様に雨が内湯の中まで襲いかかって来る。ここは外から見ないと分からないのだが、巨大なガラス戸で仕切ることができる。しかし一体いつこの戸を閉めるのだろうか?風呂上がりに敷地内に涌いている水をペットボトルに詰める。名湯のある所、涌き水は間違い無く美味い。チェックアウトの頃は風雨が激しくなってきた為、ゴアテックスのレインウエアーに身を包んで、宿を後にする。