町田に来る度に気になっていた靴屋の2階にあるカフェというより喫茶店である。町田のカフェをいろいろ探しているうちに、この店が2006年7月に直木賞を受賞した三浦しをんさんの著作「まほろ駅前多田便利軒」に「コーヒーの神殿 アポロン」として登場していることを知った。直木賞作家が著作の中で登場させるほどの店ということは、さぞかし居心地がいいのだろうという直感で訪れてみた。靴屋の2階を外から見ると観葉植物が窓全面を覆いつくしており、店の中を窺い知ることは出来ない。店の外に掲げてあるメニューにはナポリタンやサンドイッチなど昔懐かしいメニューが並び、大きなコーヒーカップからは湯気が出ている。
初めてこの店に入った人は中世の甲冑に圧倒される。よくよく観察すると観葉植物、金ぴかのキリンの置物、チーターの置物、鹿の顔、裸婦の彫像などがそこかしこに置かれ、テーブルの上には七人の小人のような人形のついたシュガーポットがあり、天井や壁にはステンドグラスのような色とりどりのガラスがはめ込まれ、床には赤いじゅうたんが敷かれている。一見脈絡のないようなようなものばかりだが、中世ヨーロッパの宮廷にでも迷い込んだかのような異空間というのが正直な感想だ。
人によっては好き嫌いが分かれる雰囲気で落ち着かないような印象を受けたのだが、慣れてくると店のそこかしこが観葉植物でうまく仕切られているせいか、まったりとした感じでこれはこれで悪くない。訪れた時は2時過ぎで丁度ランチの客の波が引いた時だったのか、かなり空いていた。しばらくすると喫茶の客が雪崩を打ったように入り始め、急に活況を呈してきた。老舗の店のせいか固定客が多そうで、植物園と動物園が同居したような環境が人々の生活に溶け込んでいるのだろう。メニューを見て注文する前に写真を撮りまくっていたので、他のお客さんの目を気にせずに済んだのは幸運だった。
入口のレジの所に三浦しをんさんの直筆の色紙があり、2006年8月に王様のブランチで紹介された旨の告知が貼ってあった。非常にインパクトのあるお店だが、スピーカーから流れてくる音楽もひとひねりしていてクラッシックのようなオペラのような時代がかった感じがした。ナポリタン、ピザトースト、チョコパフェ、ウインナーコーヒー、チーズケーキセットを頼んだが、とりたててどれも美味しいという訳ではなかった。しかしこの特殊な環境の中であるからこそ、こういうありきたりのものを食べたり飲んだりするには適しているのかもしれない。一度きたら忘れられないインパクトを残してくれたこの喫茶店は、毎回違った席に座って色々な景色を眺めてみたいそんな気にさせてくれた。